浅野さん 木彫りで仏像や観光名所作り30年

update 2015/5/30 10:42


 【北斗】社会福祉法人上磯清風会ケアハウスそよかぜ(宮下光子理事長)に入居する浅野一雄さん(89)は、木を使って仏像や観光名所などを30年間コツコツ作り続けている。現在の活力の源は“恩返し”。毎日木と対話しながら作品を生み出している。

 浅野さんは東京出身。予科練習生として終戦を迎え、疎開した家族を追って今金町に移り住んだ。その後、函館市で燃料店を営んでいたが、1986年に店をたたんだ。「懺悔(ざんげ)の意味を込め、燃料店の倉庫で仏像づくりを始めたのがきっかけ」と振り返る。

 不要になった木の切れ端を使い、のみと彫刻刀を巧みに操って命を吹き込む。「顔が一番難しいんだよ」と笑う浅野さんだが、表情を細やかに仕上げる腕前には定評があり、函館市内の寺に仏像を寄贈したこともあるという。

 仏像以外にも、時代を象徴する女性の像や姫路城、平等院鳳凰堂など、アイデアをふくらませて制作してきた。浅野さんが「これだけは自慢できる」と胸を張るのは、空中に浮かんで見える天女像。「土台に置いたときに倒れないよう、ピタゴラスの定理や三角関数などを使ってバランスを計算した。何度も失敗したが、最終的にたった1aの棒を組み込んで大成功」というから驚きだ。

 今年2月に入居した浅野さんにとっての恩人がいる。理事長の夫で、宮下建設運輸(北斗)の社長を務める宮下清さん(75)。浅野さんの作品に感銘を受けて16畳ほどのプレハブ倉庫を設置し、飾り棚を自ら作った。浅野さんは「奈良・法隆寺の正堂『夢殿』にかけて、夢をつくるこの倉庫も夢殿と呼んでいる。生きがいを与えてもらった恩義に報いたい」と、約50分の1スケールの宮下さんの自宅を制作中だ。

 宮下さんは「腕は人間国宝級だと思う。充実した毎日を過ごせるよう、これからもサポートしたい」と笑顔を浮かべている。

提供 - 函館新聞社

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