地域に根付いた35年/人見町の文房具店「えのもと」が閉店
update 2005/3/29 10:07
店主の肩越しに見えるのは、1970年代のアイドル歌手のポスター、お菓子、文房具―。古き良き時代を感じさせる店内には、にぎやかさとともにちょっと胸が締め付けられるような郷愁が漂う。函館市人見町1の文房具店「えのもと」の店主・榎本和夫さん(74)は25日、開業から35年間の歴史に幕を下ろした。最後の営業日は、小学校の終業式。子どもたちの思い出が詰まった「地域の顔」が消えることに閉店を惜しむ声も多いが、思い出は色あせることはない。
榎本さんは釣り具の小売業を営む父の「背中」を見て育ち、自分も商売の道をと卸売業へと進んだ。道内各地を回った後、62年に函館に。妻の正子さん(70)と二人三脚で71年、「えのもと」を開いた。
店の正面には、函館金堀小学校。部活動を終えた児童が立ち寄り、店内には「笑顔の花」が咲き乱れた。榎本さんは「当初は文房具だけを取り扱ってきたが、子どもたちを思い、お菓子やおもちゃも置くようになった」と振り返る。
榎本さんにとって、思い出深いのは85年前後の七夕祭り。「当時、ちょうちんや笹(ささ)の飾りを取り扱う店が少なく、1日で700人も来店したことがあった」と語る。子どもたちは榎本さんからお菓子をもらうと「ありがとう」と満面に笑み。「本当に良い時代だった」と目を細め、つぶやく。
2003年5月、尊敬し、愛した父が他界した。「人生や仕事の先輩でもある父が亡くなったことで、一つの区切りとなった」と榎本さん。幼いころ、常連だったという同市人見町に住む米穀店経営の不京靖貴さん(44)は「店主の人柄がにじみ出た『心温まる』店で、何度も通った。思い出は尽きず、地域に根付いた商売がなくなるのは残念」と顔を曇らせる。
同校の卒業生である不京さんの三男・攻君(14)と、友人の坪田勇二君(14)は、放課後、同店で飲み物などを購入していたという。2人は「閉店は寂しい」とがっかりしたようにつぶやいた。
35年間、店内に響いた子どもたちの笑い声は、もう聞こえてはこない。榎本さんは「十分、地域に貢献できたと思う」と目頭を熱くし、「苦労を共にした妻と、道内旅行に行きたい」と、今後の夢にも思いをはせている。(佐々木 司)
提供 - 函館新聞社
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