クジラの行方(下)

update 2005/3/3 12:53

 「供給過剰で品物が余っている状態」。函館市水産物地方卸売市場の卸売会社「函館魚市場」の山上慎太郎鮮魚部次長は表情を曇らせる。増える取扱量とは裏腹に、消費は思うように伸びない。「ほかの肉製品に比べて価格が高いため」と、水産物取引関係者は口をそろえる。

 鯨肉の普及を進める「函館くじら普及協議会」は2004年度、「子どもに鯨を食べる習慣を知ってほしい」と、27年ぶりとなる学校給食への鯨肉復活に力を注いだ。3月まで、市内62の小中学校で提供され、05年度以降も継続される見通しだ。

 鯨肉の店頭価格は部位によるが、赤身100グラムが300―400円。函館市が調べた2月の牛肉価格は、国産が同328円、輸入は同156円で、国産牛肉並みかそれ以上だ。「家庭で食べたい」という子どもが増えても、食卓に並びやすい価格とは言えない。

 なじみのなさを指摘する声も多い。函館自由市場共同組合(同市新川町)の佐藤止昭理事長は、近年の子ども中心の食卓事情に触れ、「子どもの好みでメニューを決める家庭が多い。まずはクジラに親しみのない子どもが食べたくなるような状況を作らないと売れない」とみる。

 鯨肉は、戦後の食糧難の時代に連合国軍総司令部(GHQ)がタンパク源として給食に導入した。ピークの1962(昭和37)年度には年間22万トン、国民1人当たり年間2・4キロが全国で食べられ、消費された肉類全体の30%を占めた。

 ところがこれ以降、消費量は下がり続ける。「原因は資源の回復の遅れによる個体数の減少と、国際捕鯨委員会(IWC)による大型鯨類捕獲の規制」(水産庁)。13年後の75(同50)年度、国内の鯨肉流通量は最盛期の3分の1以下にまで落ち込んだ。

 さらに、86―87(同61―62)年の南氷洋捕鯨船団を最後に、日本の沿岸大型捕鯨は廃止。鯨肉を食べる習慣は急速に衰退した。生まれた時から牛・豚などの肉がふんだんにあった今の子どもたちにとって、鯨肉は縁遠い存在だ。

 函館市内のホテルにある飲食店では2月、「ミンククジラ定食」をメニューに加えた。「たくさんの人に鯨を味わってほしい」と、週末限定、1200円で提供。しかし、「注文したのは子どものころ鯨肉に慣れ親しんだ年配者ばかりで数も少なかった」(同店)。わずか1カ月でメニューから姿を消した。

 国はIWCの総会で商業捕鯨の再開を目指して提案を続けているが、04年度も否決され、再開のめどは立たない。05年度の総会開催地は捕鯨賛成国の韓国。市内の取り組みを後押しするような成果はあるのか―。

提供 - 函館新聞社



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