芸術ホールの挑戦(上)
update 2005/1/12 11:46
昨年、世界の実力・人気ともトップクラスの日本人演奏家によるリサイタルを次々と実現させ、道内外の音楽関係者から「どうして、あのようなことが地方都市で実現できたのだろう」と、注目された函館市芸術ホール(ハーモニー五稜郭)。その謎を探りにホールを訪れた。
その結果、やはりキーパーソンがいることが判明した。副館長の鹿内正紀さんである。
函館市文化・スポーツ振興財団に所属し、北洋資料館長も兼務する鹿内さんは、音楽(特に西洋古典音楽)を心から愛し、若いころから著名な音楽家の演奏会に足しげく通った。現在も次の企画のために札幌キタラホールや道内外の主なコンサート会場を回り、発売されるCDやテレビ、FMのチェックを欠かさない毎日。その知識の蓄積は膨大だ。
「昨年の音楽会事業のコンセプトは、世界の3大音楽コンクール優勝者を招いてのコンサートということにしました」と鹿内さん。
その結果が、エリザベート国際音楽コンクール優勝の戸田弥生さん(バイオリン)、同じくアブデル・ラーマン・エルバシャさん(ピアノ)、チャイコフスキー国際音楽コンクール優勝の上原彩子さん(ピアノ)、チャイコフスキー国際音楽コンクール優勝の諏訪内晶子さん(バイオリン)という国際的にも活躍する実力者をそろえた画期的な事業となった。
この企画のために2年前から、手を打った。若手で有望なアーティストが有名になる前に予約を取るという手法である。その確かな眼力が、地方小ホールでは不可能ともいえるようなトップクラスの演奏家のリサイタルを実現させた。
諏訪内さんは超過密スケジュールをやりくりしての来函で、函館の聴衆のために特別用意したプログラムを演奏。ファンには何ものにも代えがたいプレゼントとなった。
「もっと多くの人に聴きに来てもらいたい。幅広いファンの要請に応えるコンサートというのも事業の柱です」。こうして、テレビなどで親しまれている、高嶋ちさ子さん、加羽沢美濃さんの名コンビの演奏会、いまや世界の有名演奏家の仲間入りをした村治佳織さんのギターリサイタルまでもが実現した。
この5大コンサートは、平均656人の聴衆を集め、入場券の売り切れも出て開館以来の入場者となった。札幌や東京などからも聴きにくるファンも少なからずいた。
成功に加え、ホールの雰囲気も大きく変った。「2年前、前任者から引継ぎを受け、真っ先にやったことは、開演の『ビー』というブザーを軽やかなチャイムに変更したことです。音楽会にふさわしい雰囲気作りということで、開場時にもカリヨンに似た鐘を鳴らすことにしました」と鹿内さんは語る。
聴衆からアンケート回答などで寄せられる要望にも可能な限り対応している。「ピアノの譜面をめくる人の椅子の色が会場に合わない」という意見に、試行錯誤の結果、「黄色の椅子にしてようやく木を主体にした会場の内装にふさわしいものにできました」と言う。
このほかにも、プログラムを女性のバッグに納まりやすいように小型化し、ページを増やして演奏者情報を詳しく載せる、ボランティアをお願いして会場の案内を行う、などきめ細かい数々の改革を実施している。
音楽を楽しむための環境作りに中央の各ホールが力を入れている現在、たくさんの聴衆に足を運んでもらうには、ホール側の努力、サービスの向上が欠かせない時代になっていることを敏感に察知しての判断だ。
地方のホールは、とかく事務的になりがち。そのような中で異色とも言えるほど充実したプログラムや、来場者への細かな心配りが感じられる市芸術ホールの対応の裏に、鹿内さんの的確な判断と行動力、そして音楽全般にわたる並外れた知識と情熱がある。
「何事でも、頑張れば地方でもできる」。鹿内さんの姿からは、そんな思いが強く伝わる。(川端治彦)
提供 - 函館新聞社
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