後を絶たない山菜採りの遭難

update 2004/6/7 10:02

 道南でも山菜採りにからむ事故が相次いでいる。身近なレジャーとして、家族や友人と軽い気持ちで山へ入り、迷ってしまうケースが大半だ。タケノコやワラビなどの山菜を探し求め、山の奥へ奥へと進むうちに遭難。楽しいはずの一日は暗転し、焦りで動き回るうちに体力を消耗、亡くなってしまうケースも現実に起きている。毎年、事故が発生しているにもかかわらず、一向に減らない遭難者の数。なぜ、事故の教訓は生かされず、同様の悲劇が繰り返されるのか。その原因と防止策を探った。

 道警函館方面本部の統計によると、過去3年間の遭難事故発生件数(行方不明者数)は、2001年が9件(9人)、02年が14件(16人)、03年が23件(28人)と年々増加している。今年は3日現在で11件(12人)を数え、例年を上回るペースだ。

 死者の数は01、02年がともに1人で、03年は2人。今年はすでに2人が犠牲となり、歯止めがかからない状況にある。世代別では60歳以上のお年寄りに集中していることも特徴だ。

 遭難の危険とその防止策について、多くが理解している現状にありながら、なぜ繰り返されるのか。市内の自営業の男性(57)は、山中で迷った体験について、「とにかく気持ちだけ焦り、冷静な判断ができなかった」と振り返る。

 男性は10代から山菜採りに親しんできた。大千軒岳など道南の山を中心に、フキやゼンマイなどを採って楽しんできたが、何度も危ない目に遭ってきたという。

 以前、八雲と熊石の境界に当たる八熊峠でタケノコ採りをしていた際、下を向いたまま夢中で採り続けたところ、気付いたときには帰り道が分からなくなっていた。「山では採ることだけに夢中になってしまう。周りを見ずに歩き回るうち、自分の居る場所が分からなくなってしまった」と話し、「焦る気持ちだけが先行し、半日ほど山中を歩き回った。いま思い出すだけでも、ぞっとする」と顔をこわばらせた。

 また、「早く山から出たいという人間の心理が、楽な方向へと足を進めさせるようだ。下りの道のみを選んだ結果、戻るべき道とは正反対の場所へ移動しているケースもあるのでは」と分析する。

 現在は自らの経験を踏まえ、入山時には必ず、最低限の食料と水、笛やラジオなどを携帯するというが、「仲間の中でも、食料や水を車中に置いたままにする人が多い。油断は禁物。慎重に行動してこそ、レジャーは楽しめる」と語気を強める。

 若いころから、山菜採りをしている市内の女性(71)も、何度か山中で迷った経験があるという。「八雲町付近の山に入った際、入山時は晴れていたが、途中からガスがかかり、視界が悪くなった。犬を連れていたので、林道まで何とかたどりつけたが…。迷っている最中は、もう戻れないかと不安で仕方なかった」と、そのときの恐怖を口にする。

 上ノ国町湯ノ岱の山中で迷ったときは「リュックサックには採ったタケノコがぎっしり。50キロぐらいは入っていたと思うが、その場に捨てて身軽にした」と語る。「こう配のきつい山を歩くだけでも疲れるのに、重い荷物を背負いながらでは、余計に体力を奪われる。長時間、山から出られないことも考え、判断した」と振り返る。

 「目の前に山菜があると、どうしても欲張ってしまい、奧へ奧へと入ってしまう。それが事故を招く」と、遭難の原因について語る。いまではできるだけ奥へは入らず、また、もしものために食べ物や水を持参しているといい、防犯ベルなどの鳴り物も鳴らし、クマ対策にも注意を払っている。

 入山場所にラジオを置き、大きな音を鳴らしたり、ビニールテープを体に付け、その範囲内でしか移動しないなど、遭難を防ぐ策はいくらでもある。さらに、食べ物を所持するなど、万一に備える方法も、すでに知られている。これらをうまく組み合わせ、自分自身のルールを確立することが、遭難への備えとして有効だといえる。ただ、最も大切なことは、夢中になり過ぎず、自らの心にブレーキをかけられるかどうか。その判断力こそが、自らの身を守る最高の備えとなりそうだ。

提供 - 函館新聞社



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