デビュー作が遺作に・国斗純さんの文庫本「路上の異邦人」人気

update 2004/3/11 13:03

 函館を幻想的な詩と小説で描いた、文庫本「路上の異邦人〜函館に魅せられて」が今年1月に新風舎(東京)から出版され、市内の書店で売り切れるほどの人気となっている。著者は函館で執筆活動を続けていた国斗純(こくと・じゅん)=本名・井上和広=さんで、出版後の2月21日、がんで死去した。函館の友人たちは「デビュー作が遺作になってしまったのはとても残念。せめて、多くの人に読んでもらいたい」と購入を勧めている。

 国斗さんは東京出身で、本作が出版された1月12日に41歳の誕生日を迎えた。がんが分かったのはその後で、既に手遅れの状態だったという。

 函館には、仕事で8年ほど前に転勤してきた。その後、会社を辞めて、あこがれだったという文筆業の世界に。「何かが書けそう」と感じて函館に残り、わずかな退職金と貯金で生活しながら、作品を書いてはあちこちに応募する生活を送っていた。ペンネームは、フランスの詩人、ジャン・コクトーから付けた。

 本作は「新風舎文庫大賞」に出した作品。惜しくも入賞は逃したものの、審査員から「いい意味で生活感がなく、幽玄な世界が堪能できる。函館への思い入れがひしひしと伝わる点にも好感が持てる」と高い評価を得て、出版が決まった。

 国斗さんが作家を目指して会社を辞めたころ出会ったという、FMいるかのパーソナリティー、橋本孝さん(55)は、作品の批評を行うなど、親しい付き合いをしていた。「濃い目のコーヒーとビートルズ、そして函館西部地区が大好きな男だった。どこか浮世離れしていて、人懐っこく、世話をしたくなる男だった」と振り返り、「今でも、西部地区の坂道を歩いていると下からひょこひょこと歩いてくる気がする」と早すぎた死を惜しむ。

 本作を「出発点だ」と語り、堂々と「作家です」と名乗れる日を目指していたという国斗さん。計らずも、最期のときを小説家という夢を追うことに使い、1冊の本を出してこの世を去った。同書の終わりは「さよなら函館… 時間の旅人より」。知人の1人は「意図していない特別な意味を感じてしまう」と語る。

 森文化堂(松風町3)では、早くから売り切れの状態となるほどの人気ぶり。同書のコーナーを設けている文教堂書店湯ノ川店(湯川町1)でも好調な売れ行きで、今後はレジ前にも並べ、さらに多くの市民に紹介することにしている。

 192ページ、650円。

提供 - 函館新聞社



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