87歳杉野さん、自転車でイカを売り半世紀

update 2012/8/25 11:37


 【江差】江差町姥神町の杉野悦男さん(87)は、今夏も愛用の自転車でスルメイカの行商に精を出している。早朝に「イガ、イガ」と前かごのスピーカーで声を響かせて「朝イカ」を売りさばく。行商の形は半世紀変わらず、「最近は足腰が痛くて自転車が疲れるけど、90歳になるまではやる。毎朝イカを待ってくれている人がいるから」と声に力がこもる。

 杉野さんは江差生まれで、行商は20代後半に両親の水産加工業の足しにと始めた。10年前に73歳で亡くなった妻のサダさんと一緒に生計を立ててきた。現在は本業のすり身づくりの傍らだが「若いころは(サダさんと)二人で朝のイカ売り、昼間にホッケやスケソをリヤカーで売って歩いた。砂利道の中、厚沢部まで行ったこともある。息子3人を育てるために家族みんなで一生懸命だった」と振り返る。

 イカは自宅近くの港で仕入れ、「江差の人は新鮮なイカしか食べない。だから朝イカがなければ、その日の仕事は休み」と妥協を許さない。24日は午前2時に起床し漁船を見て回り、納得のいくイカを見つけたのは同6時だった。

 氷詰めの発泡スチロールにイカを並べ、50年来の自転車の荷台に積んで行商が始まる。JR江差駅前から上野町、本町などを1時間で回る。急な上り坂が続く。全身から汗が吹き出し「あぁ、こえくてゆるぐね(とても疲れる)」と自転車を押す表情がこわばるものの、玄関先から常連の姿がのぞくと「おはよう、いいイガだよ」と笑顔が戻る。

 常連の石川やよさん(84)は「暑い中自転車で頑張っている姿をみると元気をもらえる。今朝のイカも新鮮だった」と満足の様子。

 姥神祭の時期が書き入れ時で、杉野さんは「『父さん元気だったか?朝イカちょうだい』と懐かしい人に声を掛けられるのがうれしくてね」と目を細める。お盆には孫たちにも自慢のイカを振る舞った。「朝イカの刺し身は最高だ。人間は体を動かして汗をたくさんかいて、お腹が減ったらご飯を食べる。これが一番の健康だね」と日焼け顔に輝く汗をぬぐう。杉野さんのイカ行商は10月ごろまで。

提供 - 函館新聞社


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