函館市の医学部誘致構想 国の認可が課題

update 2012/6/1 10:36


 函館市が打ち出した、同志社大学(京都市)に対する医学部誘致構想への関心が高まっている。道内の医師不足解消と同時に、新たな地域活性化策として期待する声が上がる一方、国が現段階で医学部の新設を認めていない上、同志社大も新設の意向を明言していないため、工藤寿樹市長は「期待を持って進めていくには至っていない」と語る。構想の問題点を整理し、実現へのカギを探った。

 市は西尾正範前市長時代に公立はこだて未来大への医学部設置を検討したが、工藤市長が市の財政負担などを理由に見送った経緯がある。今回あらためて市が誘致に動いたのは、同志社大の創設者・新島襄と函館との深いつながりに加え、財政負担が少なく、医師不足の現状に変わりがないことが挙げられる。

 新島は勉学のため函館から米国に密出国し、帰国後、京都に同志社英学校を創設したことで知られる。同志社側も、八田英二理事長が工藤市長との会談で、函館に絞っていないとしながらも「(医学部設置は)昔から思いはある」とし、仮に作る場合には、建学の精神に基づく医学部を設置したい旨を示したという。

 函館市医師会の伊藤丈雄会長は「先進、高度医療や研究機関としての拠点となり、将来的には地域で医療の質、量の確保もできるようになる。地域経済の波及効果も期待できる」と期待感を示す。

 2008年に厚生労働省がまとめた調査によると、人口10万人当たりの医師数は南渡島で222・6人と道内3番目に高いが、南桧山で122・3人、北渡島・北桧山で114・6人。道南3地域とも全道平均(224・9人)全国平均(224・5人)を下回る。

 医学部そのものも道内には北大、札幌医大、旭川医大の3校のみ。中国地方に6校、四国地方に4校、九州・沖縄は11校あることと比較した場合の“偏在”は明らかだ。

 加えて市は、国が導入に向けて検討を進める病院船(災害時多目的船)の母港として函館港を使ってもらおうと、誘致活動を活発に進めており、医学部とセットで、観光面も絡めた医療産業の拠点化を視野に入れている。

 実現へのネックは、国が現段階で医学部の新設を認めていないこと。文部科学省が設置した検討会では約1年間かけて議論したが、新設については賛否両論を併記する形で論点をまとめており、それ以降目立った動きはない。

 国は1979年の琉球大(沖縄)を最後に新設を認めていない一方で、2008年からは既存大学の定員を増やす政策に転換。入学定員は07年度の7625人から本年度には8991人まで増やしたが、「地域の医師確保の観点から、緊急臨時的に認める」(文科省)との姿勢を示している。

 また、医学部新設は附属病院の設置が条件。未来大に設置する場合には市立函館病院の附属病院化が検討されてきたが、今回のケースでは市が土地確保などで協力しながら、同病院や市内の大規模病院の「連携病院」としての活用を検討する方針。市病院局の吉川修身局長は「仮に連携病院として協力していくためには、人材確保や体制の整備など、解決しなければならない課題は大きい」と話す。

 今後は国や同志社大の動向を見極めながら、実現の可能性を模索していくことになる。伊藤会長は「本格的に誘致するのであれば、地元から待望論や必要論をどう醸成していくかが大事。行政や経済界、医療現場、市民も含めて姿勢を示していく必要があるのでは」と指摘する。

提供 - 函館新聞社


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