函館への郷愁 78編に…市内出版社が長谷川濬の詩文集刊行

 函館の出版社「Mole(モール)」(津田基代表)がこのほど、函館出身のロシア語翻訳家、長谷川濬(しゅん、1906―73年)の未発表のエッセーなどをまとめた詩文集「木靴(さぼ)をはいて―面影の函館」を刊行した。文学界で名をはせた「長谷川四兄弟」の三男が死の直前、ふるさとの記憶を思い起こしつづった78編に加え、同時代に活動したアマチュア写真家、熊谷孝太郎(1893―1955年)の写真28枚も収録。津田代表は「豊かだった大正期の地方都市の輝きが感じられる」と話している。

 未発表の詩文は横浜在住の興行プロデューサー、大島幹雄さん(56)が2004年、長谷川と交流のあった函館出身の興行師、神彰(1922―98年)の取材中に、長谷川の遺族から預かったノートの中から見つけた。知り合いだった津田さんに相談し、2人で3年掛かりで編集作業を進めてきた。

 「南部せんべいのやける匂/炭火に熱する円型鉄板/はじめるごま/無愛想なおやじとせんべい」―。「はこだて五島軒界隈」と題された詩の冒頭だ。78編の中にはハリストス教会や大門など西部地区の当時の様子を記す詩文が多く盛り込まれている。

 中学生だった長谷川が、トラピスト修道院で買った木ぐつで登校して教員に怒られたエピソードや長兄の海太郎に関する思い出なども回想。添えられた写真と合わせ、大正時代の函館の街並みや風俗に思いをはせることができる。

 津田さんは「函館への純粋なノスタルジーと美しい文章が胸を打つ」と説明。大島さんは「40年以上離れていたにもかかわらず20歳までの函館がそのまま残っている。地元の人にぜひ読んでほしい」と話している。

 初版は2000部作成。価格は2520円。市内の主要書店で販売中。問い合わせは津田さんTEL0138・27・1018。

 長谷川濬

 ロシア文学の翻訳家、作家。長兄は林不忘のペンネームで小説「丹下作善」をヒットさせた海太郎、二兄は画家の燐ニ郎、弟は文学者の四郎。函館弥生小では亀井勝一郎と同級。函館中学(現・函館中部高)卒業後、漁船で季節労働などに従事。ロシア語を学んだ後、満州で巡回映写力を注ぐ傍ら小説を発表。翻訳したロシア人作家バイコフの動物小説「偉大なる王(わん)」で有名に。戦後はロシア語通訳を務めながら小説や詩などを作り、73年没。享年67。

update 2009/4/7 10:26
提供 - 函館新聞社


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