絵で訴えた反戦と平和…石川慎三さんきょうから絵画展
太平洋戦争当時、千島列島の防衛に従事し、終戦後はシベリアに4年間抑留された経験を持つ、函館市松陰町の石川慎三さん(89)の絵画展が2日から、いしい画廊(本町32)で始まる。反戦や平和への思いから、今回、初めて戦争をテーマに筆を執り、激戦の様子やシベリアでの強制労働の過酷さが伝わる作品に仕上げた。慎三さんは「これからの世代の人にはあのような思いはさせたくない。戦争の無意味さやむなしさを知ってもらいたい」と話している。
慎三さんは、1919年函館市で生まれ、画家を目指して勉強を重ねたが、戦争が夢を引き裂いた。戦時中は、旧陸軍兵士として補給が途絶えた千島列島で連日のごとく訪れる米軍の爆撃と飢餓に苦しみ、終戦後も旧ソ連軍と戦闘を継続。46年から49年までシベリアに連行された。
抑留中は極寒のシベリアでさまざまな強制労働に従事。後半の2年間は絵の腕を買われて、芸術班に配属となったが「スターリンらの肖像画などつまらないものを描いた」と話し、絵を描く情熱はいつしかうせた。49年末に帰国を果たし函館に戻ったが、両親が「慎三さんが戦死した」との誤報を聞き、失意のまま亡くなったと知り、失った時間への無念さだけが残った。
長年勤めた函館ドックを退職後の1980年から2005年まで25年間、念願の絵画教室を開いた。これまで、戦争がテーマの絵は描いたことがなかったが、ことし90歳を迎えることや、戦後60年を超えて戦争の語り部が少なくなることを憂い、薄れゆく記憶や資料を頼りに昨年夏ごろから筆を執った。
完成した作品は、迫り来る米軍の戦闘機や旧ソ連軍の戦車の前に転がる死体など、死と隣り合わせの戦場の恐怖感を表現。シベリアでの経験からは、吹雪の中、貨物列車に満載の石炭をたった2人で下ろす作業や、飢えや重労働で命を落とした仲間の遺体を運ぶ様子などを描き、氷点下30度を下回るいてつく世界の鋭利さがキャンバスから伝わる。
絵画展では、戦争記録画のほか、妻和加子さん(82)と病気を患う長女修子さん(55)との「親子3人展」として、3人がこれまでに描きためた思い出深い作品も出品する。和加子さんは「この歳になって一緒に絵画展をやれることだけで胸がいっぱい。夫には『ありがとう』の思いだけです」と話す。慎三さんは「苦労を掛けたが妻はわたしへの最後のはなむけのつもりでしょう。娘の生きがいをともにできて良かった」とし、「平和な時代の10年はあっという間だが、軍隊での10年は長く、苦しかった。戦争の悲惨さを少しでもわかってもらえれば」と話している。
絵画展は7日まで。午前10時から午後6時(最終日は午後4時)まで。入場無料。
提供 - 函館新聞社
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