吉田幸子さんがかつて芸者を務めた尾形京子さんの半生つづる

update 2007/4/6 10:45

 函館市在住の吉田幸子さん(62)が、芸者として活躍した後、同市宝来町でおでん屋「冨茂登(ふもと)」を創業した尾形京子さん(86)の半生をつづった冊子「花はくれない柳はみどり」を完成させた。人や地域の歴史を掘り起こし、語り手の肉声のまま後世に残す「聞き書き」を駆使し、忘れ去られつつある花柳界の華やかさや気品高さを如実に伝えている。

 吉田さんが「聞き書き」と出合ったのは2002年。人の話を聞くことで自分の本質を知るきっかけにしようと、日本聞き書き学会(事務局・札幌)が開いた講座を受けた。対象にしたのは、後志管内黒松内町に住む女性。戦後、サハリンから引き揚げてきたエピソードをまとめた作品は、大賞に輝いた。

 この冊子を手にした1人が、吉田さんの出身大学の後輩で、京子さんの二男有司さん(56)。市内で開かれた、同大の校友会を通じて目を通し、感動した。昨春、京子さんの荷物を整理していた際に発見した芸者時代の手紙を手に、吉田さんに製作を依頼した。

 高齢の京子さんから話を聞き出すのは思った以上に困難を極め、吉田さんも一度は断念。しかし、祖母と母の生きてきた姿を残したいという有司さんの熱意と、京子さんを取り巻く関係者の手助けもあり、昨年6月から作業を本格化させた。

 手紙は、京子さんが小樽で修業していた際、芸者だった母マスさん(1979年に他界)と交わしていたものが中心。遠方のわが子を案じる母親の心情や、けいこの楽しさを報告する文章を基に聞き書きは進められた。北洋漁業で隆盛を誇った函館のにぎわい、芸者引退後に出店にかける思いなどが、函館なまりの京子さんの口から切々と語られ、半年かけて録音したテープは60時間以上に及んだ。

 編集に際しては、タイトルを茶掛けの「柳緑花紅」から引用したほか、写真や字体、細部にわたるデザインなど、吉田さんのこだわりが凝縮している。冊子はA5判の65ページで、700部発行。有司さんが営む料亭「冨茂登」で1冊1200円で販売している。

 吉田さんは「昔を思い出しながら家族で過ごす楽しい時間を第三者として、立ち会えたことに喜びを感じる。聞き書きの素晴らしさだけでなく、花柳界の奥深さを少しでも多くの人に伝えていければ」と話している。

 本の購入に関する問い合わせは、料亭冨茂登TEL0138・26・3456。

提供 - 函館新聞社



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