市文学館に久生十蘭の直筆原稿寄贈 十蘭の妻のめい・三ツ谷洋子さん(東京)

update 2008/2/23 10:35

 函館出身の直木賞作家、久生十蘭(ひさお・じゅうらん、1902―57年)の直筆原稿「従軍日記」と、旧日本海軍の公文書を書き写した「戦闘詳報」の複製が22日、函館市文学館(末広町22)に寄贈された。贈ったのは久生の妻のめいで、東京在住の三ツ谷洋子さん(60)。「戦闘詳報」の原本はアメリカにあるとされ、寄贈されたのは久生が原本を筆写したノート。当時の海軍の指揮や戦闘体制などがうかがえる貴重な資料となる。

 同日、市教委の須田正晴生涯学習部長に三ツ谷さんが目録を贈った。三ツ谷さんは、すでに同館に寄贈されている97点の資料とともに有効的な活用を願った。同館では7月ごろの一般公開を予定している。

 久生は戦時中、従軍記者として南方戦線を歩いた。「従軍日記」は43年2月24日から9月9日までの記録で、インドネシア戦線の様子をつづっている。すでに出版されているが、原本は達筆な上、英語やフランス語などの外国語が交じり、判読が難しい。戦線の様子や久生の考えが分かるほか、書誌学的な価値もある。

 「戦闘詳報」は、所属していた第934海軍航空隊の公文書の書写。原本は戦後、アメリカの手に渡ったとされ、市文学館に寄贈されたのは原本の書写。久生が写したノートには当時の情報があふれ、その価値から防衛省が長く寄付を打診してきたという。

 市文学館には93年の開館に合わせ、久生の妻、阿部幸子さん(2003年没)が、直木賞の賞状や副賞の金時計、愛用のマージャンパイ、各種文学賞受賞を伝える新聞や電報などを贈っている。久生の著作権を継承した三ツ谷さんが、国内3文学館の中で、最も資料が整った同館への寄贈を決めた。

 贈呈を受け、須田部長は「貴重な資料からさまざまなエピソードが分かる。有効に活用します」と謝辞を述べた。

 三ツ谷さんは「久生は生前、本心を語らず姿を見せない、きざな面があった。本人の息吹や時代の感覚が、文学館の他の展示資料とともに伝われば」と語った。

 ◆久生十蘭 本名・阿部正雄(あべ・まさお)。1902年、函館生まれ。現在の函館中部高校を中退し東京へ。劇作家の岸田國士に師事し、文筆活動を始める。パリ遊学などを経て42年、大仏次郎夫妻の媒酌で函館生まれの三ツ谷幸子と結婚。52年に「鈴木主水」で第26回直木賞を受賞。55年に「母子像」が、米国紙主催の国際短編小説コンクールで第1席に入選。57年10月6日、55歳で死去。

提供 - 函館新聞社



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